冬になってからありがたいことに、山行の日は快晴続き。毎週毎週いろいろな方角から様々な表情の富士山を眺めてきた。さて今日は、「いつもとちょっと違う、眺望の良い山に行こう!」ということで、武甲山に登ることにした。昨日の雪で、武甲山は再び雪化粧したそうで、ワクワクする。ただし、西武秩父駅からタクシーで「一の鳥居」まで行きたいのだが、行ってみて道が凍結していたらそこまで、とのこと。すべて歩けば2時間の距離、「行けるところまで行ければいっかぁ〜」と運を天に任せて、タクシーに乗る。
タクシーは案外スイスイと坂道を上がって行く。「一の鳥居」まで行けるかも・・・と思った矢先に、2,3台のタクシーが手前に停車し、乗客が降りている。「一の鳥居」まで、歩くと後15分の距離だが、まあここまで来られれば上出来だ。リュックを背負って歩き出す。ビュービュー吹いてくる風が凍えそうなほど冷たい。ほどなく一の鳥居をくぐり抜ける。この登山道は武甲山御嶽神社の表参道になっている。薄暗い杉林の中をジグザグに登って行く。雪がほどよく積もっている。アイゼンなしでも大丈夫だが、雪を踏みしめる楽しみも充分味わえる。現在地の場所を示す石碑がところどころ建っている。一丁目から神社最終点の五十二丁目まであるようだ。
「大杉の広場」を通り過ぎると、幅の広い尾根になり、杉の大木の中をまたジグザグと登って行く。武甲山頂とシラジクボ分岐の標識を過ぎると、すぐに武甲御嶽神社に到着。山頂は神社の裏を5分ほど登ったところ。山頂に着くと、突然目の前がぱあーっと開けて、秩父盆地が足下に大きく広がっていた。180度の眺望が開けている。蛇行している川、川に架かる橋、こんもりした丘や小高い山、大小無数の建物などがまるで箱庭のように見下ろせる。空にぽっかり浮かんでいる雲たちが、遠くの山ひだや、足下の箱庭に濃い影を落としながら、ゆっくりと流れていく。空の雲も雄大な景色を見下ろしながら、空中飛行を楽しんでいるようだ。自然の大きな懐に抱かれていると、人間の営みなんて、しょせんちっぽけなものに思えてくる。遙か遠くに赤城山、榛名山、筑波山などが見渡せる。鎖場で有名な両神山がギザギザの稜線を浮かび上がらせている。すぐ目の前の武甲山北斜面は、石灰石採掘のために削り取られてしまって、ちょっと痛々しい。山頂を吹く風は、体の芯まで冷やして通り過ぎて行く。かの有名な「上州からっ風」のなごりだろうか。
山頂は凍えそうなので早々に引き上げる。神社の建物の軒下に避難して、陽だまりの中でランチタイム。冬の山では温かいカップ麺が至福のごちそうだ。昼食後ダウンジャケットを着込んで、もう一度山頂の景色を楽しむ。のどかな眺望はいつまでも見飽きないが、やむなく下山する。分岐の標識を今度は浦山口登山道の方へ進む。カラマツの尾根道を下りて行く。一部ツルツルに凍っている所があったので、アイゼンを装着する。いつもアイゼンを付けるのは面倒だなぁ〜と思うけれど、付けてみると安心感が全然違う。雪山は侮らず、面倒くさがらず・・・だなぁ。
一度傾斜がゆるんだところが長者屋敷の頭。ここからは武甲山南側の山々(子持山方面)がよく見える。ここからは、なだらかな林の中の尾根道が続く。まだ手付かずの新雪が両側にたっぷりある。すぐに童心に戻り、あえて踏み跡から外れて、真っ白な雪に足跡をたくさん付けて歩く。最後に尾根道から左に折れて、200メートルほどの急斜面をつづら折りに下る。登山道から続いて橋立川に架かる橋は通行止め。橋を渡ったら板を踏み抜きそうなほどボロボロだ。川岸に直接架かる小さな木の橋を渡ると、まもなく林道に出る。ここから浦山口駅まで約1時間。秩父鉄道浦山口駅は駅員さん一人の小さな単線の駅で、電車も1時間に1,2本くらいしか来ない。待合室もないが、駅のホームのベンチには座布団が敷いてあって、ちょっぴり嬉しい。30分ほどで2,3両編成の電車がのどかにやって来た。お花畑駅で下車し、西武秩父駅まで4,5分歩く。西武秩父駅に入るには、ずらりとお店が並んでいるアーケード内を歩くことになる。『武甲正宗』の熱燗がなんとも美味しそうだ。焼き鳥と味噌ポテト(ご当地B級グルメらしい)もゲットし、アーケード内の椅子に陣取り、このちゃんと二人で缶ビール1本と熱燗1合、半分ずつ賞味する。
16時30分発、池袋行の電車に乗る。このまま乗っていれば池袋まで行けるのに、ついつい所沢駅で途中下車〜。武甲山頂からの雄大な景色を見ていたら、とても広々した気持ちに満たされた。ちょっと寄り道して、熱燗でも飲みながらその余韻をもう少し楽しもう。駅近くの『魚民』で熱燗1合を注文し、また半分ずつ・・・。先日新たに開いた扉から着実に一歩を踏み出しているようだ。 (by なお)
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