第241回夏山特別企画:井手山岳会日本支部登山のご報告 produced by H.Tanuma
期日:8月7日(土)〜9日(月)
行き先【北アルプス/爺ヶ岳(2,670m)〜針ノ木岳(2,821m)】
コースタイム:
JR「長野」駅[8:30]〜扇沢BT[10:05/10:15]〜P1[11:05/11:10]〜ケルン[11:52]〜P2[12:00/12:10]〜P3[12:40/12:45]〜一枚岩[12:59]〜P4[13:25/13:30]〜石畳[13:39]〜水平道[13:47]〜P5[14:25/14:30]〜種池小屋[15:05/15:35]〜爺ヶ岳中峰[16:38]〜種池小屋(泊)[17:25/4:05]〜P6[5:00/5:05]〜P7[5:45/6:20]〜岩小屋沢岳(2,630m)[6:29]〜新越山荘[7:05/7:40]〜鳴沢岳(2,641m)[8:25/8:35]〜赤沢岳(2,678m)[9:35/9:45]〜P8[10:45/10:50]〜P9[12:00/12:05]〜スバリ岳(2,752m)[12:25/12:30]〜針ノ木岳[13:25/13:45]〜針ノ木小屋(泊)[14:45/6:50]〜P10[7:55/8:05]〜P11[8:40/8:45]〜[9:20/9:30]〜扇沢BT[10:30]
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(提供 Konochan)
[第1日目]
従来から夏山合宿は3泊4日が恒例。しかし今回は、小生が膝に不安を抱えていたために2泊3日にしてもらい、その日程に基づいてコースを考えた。結果的にみんなにとっても比較的日程の調整がし易かったようで、前年同様5名の参加をみたが、肝心の隊長が仕事多忙につき不参加で誠に残念。他にも参加の可能性があった方々もいたので、うまく調整が合えば大パーティによる山行になったかも知れない。今回は目ぼしい山(≒有名な山)は針ノ木岳くらいの、云わば玄人受けするコースだが、立山・剣岳連峰は目の前だし、眼下には黒部湖も見えるはず、眺めは申し分ない。結論から言えば、眺望はともかく思ったよりもアップダウンがきつく、結構扱かれた。痩せても北アルプスの一角、軽い気持ちでは登らせてくれない。
それにこの頃感じることだが、このところあまり天気に恵まれなくなってきているような・・・。2004年:唐松岳〜白馬岳は○、2005年:立山・剣岳は初日と最終日以外は○、2006年:蝶・常念岳は○、2007年三伏〜赤石岳は赤石岳以外は○、という感じだったが、2008年:奥穂・前穂は◎か●、2009年:燕〜槍は最終日以外は●となってきて、今回も雨こそ降られないが、2日目の朝を除いて抜群の眺望という程ではなかった。梅雨明け後は天気が安定するという言い方は、過去の俗説になってしまったかのようだ。
登り出しを早くするためまず新幹線で長野に移動。扇沢行きのバスは8割方埋まっている。2005年の立山・剣岳で利用したときにはガラガラだった。このバス、柏原新道入口に止まってくれないのが玉にキズ。素通りして観光客で賑わう扇沢BTへ到着。身支度を整え、車道を戻る。陽射しはガスで遮られているものの今日は朝から暑い。目指す爺ヶ岳南尾根は上部がガスに覆われていている。登り口で登山届を提出して、山道に入る。
樹木で陽射しが遮られているにも拘らず、数分歩いていただけで忽ち汗が噴き出てくる。さすがに下界の異常な暑さとは一線を画しているにしても、北アルプスと云えども今日は暑さとの戦いらしい。水分補給をこまめに取る。しばらく登ったつもりでも、扇沢BTはすぐ下に見えるし、稜線上の種池小屋はなかなか近づいてこない。所々で「ケルン」だの「一枚岩」だの標識があって登山者を退屈させないよう配慮がなされているが、やや煩い感じ。
最後の登り(鉄砲坂)は堪える。もうほぼ森林限界に達していることを感じさせてくれるものの、小屋はなかなか現れない。漸く現れてもなかなか近付けない。ふうふう云いながら種池小屋に到着。先ずは受付、部屋割は一畳当たり二人とのこと。まあ致し方無し。小屋番には若い女性多く応対が丁寧。それに、客の名前を覚えようとしていることに感心した。これは柏原イズムだろうか。宿泊者を客と思わず機械的な応対しかできない山小屋(何処とは敢て云わないが時々出くわす)に比べれば、気持ちの良さは歴然。ただ、これが当たり前だと思ってしまうと、それができない山小屋に泊まると(例えアドレナリンの分泌量が少なくても)ストレスが溜まってしまうのが辛い。
夕食は全3クールのうちの第2クール(17時30分)にしてもらった。余計な荷物を部屋に置き、ビールを飲みたいのをぐっと我慢して爺ヶ岳へ出立。ハイマツ帯をゆっくりと登る。ガスっているので黙々と登るだけ。やがて南峰に到着。爺ヶ岳の主峰は中峰なのでさらに進む。意外と南峰から中峰までは離れていて、一旦、随分と下る。そしてほぼ同じだけ登り返して中峰到着。やっぱりガスの中で眺望ゼロ。夕食の時間も気になるしタッチアンドゴーで戻る。しかし下っているうちに、ガスが切れ始めていることに気が付く。後ろを振り向くとなんと爺ヶ岳の3つの峰ともくっきりと姿を現していた。左手を仰ぐと鹿島槍ヶ岳まで見え始めている。
小屋に着いたとたん、第2回夕食を告げる放送が聞こえるので、部屋に戻らずそのまま食堂に直行。食事と一緒に生ビールを注文。漸くありつくことができた。しかもエビスの生とは豪勢だ。夕食後はそのまま喫茶室(いわゆる談話室)へ移動し一杯やる。いろんな酒やつまみが出てくるものの、腹がいっぱいで手が伸びない。やはり一杯やるのは食事前の方がよさそうだ。(副隊長)
[第2日目]
2日目は予測実働時間が8時間ほどで、蓮華岳往復も入れると10時間を超える計算だった。そこで朝は早発ちするため「3時起床!」を目標に。しかし一畳二人ではぐっすり落ち着いては眠れず、一応3時に目覚めたものの、様子をうかがっていた。3時半になり「副隊長、3時半。」と声を発したところで皆ガバッと一斉に起きた。後から気づいたことだが、種池山荘を出発してこれから長距離歩くパーティは少なかった。ほとんどの客がこれから下山か、あるいは鹿島槍を目指す余裕のコースなので、燕山荘や横尾や明神のように2時頃からみんながガサゴソ動き出す…ということは無かったようだ。
4時にリヒトをつけて出発。早立ちのご褒美の一つは「ご来光が拝めること」だが、はたして棒小屋乗越を過ぎて尾根沿いに登っていると、お日様が朝焼け色に空を染め始めた。さらに進んで2532m峰付近で、「虹が出ているよ。」と、副隊長。「なんてきれいな劔岳。」しばしうっとりとモルゲンロートに神々しく輝く劔・立山連峰に見とれて立ちつくす。4年前、劔岳へ登りに行った隊長と副隊長をタマちゃんが腰掛けて待っていたという、劔御前も見える。「あそこ!あの虹の架かった左の小さいピークで雷鳥と戯れながら待ってたんです。」と、感動の声を上げるタマちゃん。「ほう、あれが『タマの腰掛け岩』かぁ!」菊丸の絶妙なるネーミングに一同笑いながら朝食を食べる。
間もなく岩小屋沢岳に到着。劔・立山連峰はひときわ大きく、昨日まで「鹿島槍に行きたい。」としきりに強調していたアユラシが鹿島槍の「か」の字も言わなくなり劔岳に心奪われている様子。岩小屋沢岳は「岳」と名が付いているが稜線上の小ピークで、間もなくゆるやかな鞍部の新越乗越に着き、新越山荘にてラーメンやぜんざいをいただいた。山荘周辺の道沿いにはお花畑が広がり、ハクサンフウロやトウヤクリンドウ、百合などが和ませてくれる。そして本日最初の本格的な登りを登って鳴沢岳に着いた。「本日最初の」と思わせるほど、そこまでは余裕のハイキング気分だったが、ここから針ノ木岳・針ノ木峠までが思った以上にハードだった。
鳴沢岳から緩やかに下ってから一気に150mほど登って赤沢岳へ。「ここでほぼ行程の半分だね。」黒部側に「猫ノ耳」と呼ばれる岩峰が見え、その左には黒部湖が眺められる。遊覧船がやけにのどかな雰囲気。赤沢岳からの下りは赤く風化した岩場で、八ヶ岳を思い出させる。200m一気に下りきってからスバリ岳までのアップダウンの激しい岩稜をハァハァいいながら登る。途中、オーバーハングした崖の上の道(49番の写真)で、下りきった場所(48番)から振り返るとぞっとするような所もあった。スバリとは「深い谷」のことで、深いスバリ沢の源頭がスバリ岳なのだそうだ。穂高で見たような堅い荒々しい火山岩のガレが続き、険しい山になるのももっともだと思う。
スバリ岳の頂上でとにもかくにも記念撮影。針ノ木岳をバックに「笑って。」とカメラを向けたが、「まだあんなに遠いのに笑ってられないよ。」と、副隊長(56番の写真)。スバリ岳周辺の岩稜地帯にはコマクサたちが咲き、ハードな道のりにしばしの色を添えてくれる。中でもイワツメクサは、ゼイゼイ息が切れる岩を登り切ったところに限って…というタイミングで現れる花で、「私はこの花が大好きなの。」と、くぼっちが言っていたわけがわかる。針ノ木岳への岩と格闘しながら、「私もこの花が好き!」と思ってしまった。針ノ木岳頂上が近づくと、足下は槍ヶ岳の溶結凝灰岩に似た薄緑色の堅い岩ばかりになった。だから槍みたいに尖っているんだな、それにしても槍ヶ岳や東鎌尾根はクサリやハシゴが登山者を手助けしてくれたけど、ここはクサリ一つ無い分、試練が課されているといえるかも…。もがいて登っているうちにやっと針ノ木頂上に。「はぁ〜、やった〜!!」ほっと一息。種池からの道、抜きつ抜かれつして顔見知りになったTさんにシャッターを押してもらい記念撮影。残念ながらガスって眺望はほとんどなかったが、少し待っているとガスの切れ間に赤牛岳が見えてきた。「こっちの方向に槍・穂高も見えるはずなんだけど…」いくら待ってもこの分では晴れそうにないな、ということで下山へ。後で確かめたところ、その時にチラと見えた鋭角の峰は前穂高だったらしい。
針ノ木小屋までの下りも気の抜けないガレ続きだったが、途中、雷鳥の親子を見つけしばし疲れを忘れた。行く手に蓮華岳も見えてきたものの、当初の予定のように針ノ木小屋に荷物をデポして往復…という気にはなれず、明朝に回すことになった。
針ノ木小屋では旨いビールでのんびりし、本日の疲れをとった。二畳に三人とはいえ、種池のようにバラバラでなく、五人がかたまって寝られたので少し安心感が大きかった。夕食後、外に熊が現れたと、人だかりがしていたので、恐る恐る皆で見物。ツキノワグマが一頭、生ゴミ捨て場で食べ物をあさった後、針ノ木沢を転がり落ちるように逃げ去った。ここのところの異常気象で、熊たちの食べる実などが少ないのが原因だそうだ。誰のせいでもないけれど、何とかうまく共存して、この熊も人間に撃たれたりしないでほしいと思った。(Konochan)
[第3日目]
夜中に屋根を打つ雨の音で目が覚めた。ああ、雨。天気がよかったら、朝食前に蓮華岳を往復することになっていたのに、残念…。と思う気持ちと、前日があまりにもハードだったので、正直ホッとしたような気持ちもあった。
朝は雨が上がっていたが、なにやら怪しい天気。午前中にはまた崩れてくるかもしれないということで、蓮華岳行きは中止。そのかわりゆっくりと小屋の前から、赤牛岳や水晶岳、遠くに見える槍、穂の眺望を楽しんだ。近くに見える蓮華、北葛、七倉、船窪岳の山々を結ぶルートは超有名ではないけれど、眺望がよく岩稜の続くきびしいコースとのこと。玄人好みの井手山岳会向けかも。
朝食後出発の準備をしていると同室の男性から「おたくの会はずいぶん上品ですね」と声をかけられた。お酒の飲み方が静かで上品ということだ。意外な言葉にちょっと驚いたが、隊長不在だったのが大きな要因!?
さて、今年の合宿のメインには針ノ木雪渓を下ることがあった。針ノ木雪渓は北アルプス三大雪渓のひとつといわれるだけあり、幅も広いし距離も長い。針ノ木峠からの下り始めは、傾斜がきついうえに足場の悪いところがあるので、慎重に足を進めた。ようやく雪渓にたどりついてアイゼンを装着。雪渓の上に立ってみると雪は思っていた以上に固かった。それでもって黒かった! 冷たい風がひんやりと心地よいのだが、その中でも空気の暖かいところがあるのが不思議。大勢の人とすれ違ったが、この季節には雪渓はまさに登りにうってつけという感じだ。
雪渓を下りきってからは、途中涼しげな滝などを見つつ大沢小屋まで進んだ。この道が長くて暑いので、雪渓を登るプランもけっこうしんどいかもしれない。空気に含まれる湿気がますます多くなってきて、天気が怪しくなってきたため先を急いだ。ブナ林を抜けるとそこは現実世界、扇沢のバス停に到着した。
黒部ダムに向かう観光客の群れを尻目に、まず生ビールで乾杯。その後バスで大町温泉に向かい薬師の湯で汗を流した。タマちゃんのおそばが食べたいという声もあり、このちゃんが地元に一番詳しそうなお爺さん(自動販売機の中身の入れ替えをしていた方)に声をかけ、大町のおいしいそば屋を聞いてくれた。タクシーでその店「小林」に直行して、地酒3種とそばで打ち上げた。おそばもよし、3種の日本酒の味くらべも楽しく、いい気分で酔っ払ってあずさ車中の人となった。(菊丸)
参加者:副隊長、タマちゃん、このちゃん、菊丸、アユラシ
天候:3日間を通じて概ね曇時々晴
実働時間: 1日目:6時間10分、2日目:8時間30分、3日目:3時間15分
合計:17時間55分
今回の累積登高差:2,906m
今回の踏破距離:24.6km
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