なんてたって、静かな山歩きが大好き!私たちは賑やかなんだけどねえ。綺麗な紅葉も楽しみたいけれど、人がたくさん押し掛ける所はイヤ、そんな私たちのわがままに応えてくれる強い味方が、『静かなる尾根歩き』(松浦隆康著)。今日は松浦本を頼りに、「錦繍の蒔絵模様の尾根」を楽しもう。
青梅駅で奥多摩行き電車に乗り換えようとしたら、すでに通勤列車並みの混雑だった。もう乗れないかと一瞬躊躇したが、何とか体をねじり込む。登山ブームだし、電車の本数も確かに少ないけれど、まさかここでこんなラッシュに遭遇するとは、びっくりだ。途中駅で下車する人も多少いたが、結局終点奥多摩駅まで混雑は続く。奥多摩駅から東日原行のバスも増便されていたが、それでも満員状態だ。皆どこの山に行くのだろう?気になるところだ。果たして静かな山歩きができるのだろうか、とちょっと不安になる。
さすがに、東日原バス停からオロセ尾根登り口に向かって歩くグループはほとんどいなかった。八丁橋を目指して、1時間ほど舗装道路を歩いて行く。にょっきり飛び出た稲村岩も錦に彩られている。山に登る前から、蒔絵模様の紅葉を楽しみながら歩く。右手に橋があったが、通行止めになっていたので、そのまま直進方向の橋を渡った。5分ほど歩いたところで、天祖山登山口の標識を見つけ、道間違いに気付く。通行止めの橋が八丁橋で、そこを渡らなければならない。10分ほどのロスタイムで引き返す。孫惣谷林道に入り、3回カーブを過ぎた先の右斜面に、木の階段があった。この作業道がオロセ尾根の登り口だ。スギ林の中、尾根にジグザグの道が付けられているが、案外急な斜面が続いている。アキレス腱が伸び切って辛いなと思った頃から、辺りはブナ、クヌギ、ナラなどの自然林となる。赤、黄、緑の濃淡が入り交じった、自然が織りなす芸術作品に感嘆の声をあげる。同じ赤でも黄でも微妙に色が異なり、同じ色は一つとしてない。彩りに目を奪われ、伸びたアキレス腱のことはすっかり忘れていた!
標高1230メートル辺りで、作業道がオロセ尾根を外れていくので、どこかで斜面を登り始めなければならない。赤テープ、緑と白テープの場所で曲がるのが正解だったらしいが、直進して来てしまった。結局全く踏み跡のない尾根を、足を取られながらも、がむしゃらに登って行く。急斜面を登り詰めた小ピーク(1330m)で、あがった息を整える。「急なバリエーションルートだったね〜!」と言いながら、皆かなり面白がっている。辺りを見渡すと、所々にあるブナの黄金色が緑色の中で風に揺れている。明るい陽射しが、木洩れ日となって降り注いでいる。
その先のちょっと平らになった場所で、一足先に登って行ったグループに追い着いた。「すず坂ノ丸よりもここの方がお弁当に向いていますよ」とアドバイスしてくれたので、倒れた木の幹に腰掛けて、ランチタイムにする。平らに広く開けていて、お日様がポカポカ当たり、居心地がよい場所だ。お腹一杯になって体が少し重く感じられるが、もうちょっと頑張って登ると、すず坂ノ丸(1456m)に到着。誰も居ない静かな山頂だ。ここからは、なだらかなタワ尾根を下っていく。「錦繍の蒔絵模様」のタワ尾根を気持ち良く下っていく。気付いた時には金袋山頂を通り過ぎていたが、そのまま尾根を下る。人形山頂に着くはずが、突然「ミズナラの巨樹」に出くわした。タワ尾根は幅が広いので、右側の方に下っていたらしい。ねじれてゴツゴツした幹は、前屈みになって座り、口を開けている生き物のように見える。後ろ側に回ると、まるで丸めた背中のような幹がしみじみと何かを語っている。なんとも愛嬌があり、一度見たら忘れられない風貌の巨木だ。人形山の山頂も踏んでおこうと、少し斜面を登り、人形山山頂へ。
尾根伝いに一石山まで下ってきたところで、先ほどのグループの人にまた出会う。巨樹コースの方から回ってきたようだ。この先の景色が綺麗だそうだ。バスの時間まで余裕がありそうなので、荷物をデポして5分ほど先に進んでみる。眺望が開けたところから、紅葉を楽しみ、引き返す。荷物を持ち、一石山神社の方へ下だっていく。すぐに降りられると思ったら、意外にも幅が狭く急な傾斜で、しかも片側が切り落ちていて滑り落ちそうだ。予想外の悪路のため、下山に時間がかかってしまった。
一石神社に着いたのが15時50分。バスの発車時間まであと30分もない。このバスを逃したらそれこそ大変だ!バス停に向かって、舗装道路を半分小走りで行く。行きに通っていて、見覚えのある景色だ。「その建物を通り越すと、バス停があるはず!」と思ってカーブを曲がると、残念ながら道はまだ続いている。それを何度も繰り返し、ようやくバス停に着いた。はあ〜、間に合った〜!山登りよりも、最後の平地のダッシュの方が何倍もきつかった。バスに乗ると、汗が一気に噴き出してきた。
奥多摩駅16時52分発ホリデー快速に乗る。バスも混んでいたので、座れないだろうと思ったら、みんなで並んで座れた。最後のダッシュのおかげで、ビールがいっそう美味しいこと! 本当に静かな紅葉をたっぷりと満喫できた一日だった。目を閉じると、錦繍の蒔絵模様が目に浮かぶ。来年の紅葉の時期には、またぜひ訪れたい。(by なお)
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