今日はいよいよ大晦日だ。大晦日といえども、山はいつも通りに私を呼んでいる。「ええいっ、大晦日だって山に行っちゃえ〜!」と、このちゃんと二人で出かけることにした。やっぱり今年一年の締め括りには、富士山の眺めの良い山がいい。
大月駅から富士急行線に乗り換え、都留市駅で降りる。いつもは混んでいる富士急行線も今日はさすがにガラガラ。タクシーの運転手さんに「本社ヶ丸の登山口まで」と頼んだら、宝鉱山バス停の少し先まで入り、わざわざ車から降りて登山口を教えてくれた。今年の終わりを、親切な運転手さんとの出会いで締めくくれて、嬉しくなる。「良いお年をお迎えください」と運転手さんを見送ると、「無事下山してくださいね」と声を掛けられた。「はあい、気を付けま〜す!」年末に遭難して皆に迷惑を掛ける訳にはいかない・・・、気を引き締める。しばらく本社川に沿って舗装された道を歩く。本社川橋を渡って、宝鉱山跡辺りから山道になる。
始めは谷沿いの道を歩き、トラバースして尾根道に入る。トラバースの道が案外細く、ちょっと荒れていて、滑り落ちそう。「今日は遭難できないぞ!」と慎重に歩く。登山口から約1時間40分、青い空と黄色い笹のコントラストを背景に聳える鉄塔が見えてきた。本社ヶ丸山頂に続く尾根道だ。所々薄氷が張っているので、滑らないようにまたまた慎重になる。尾根道を約1時間歩くと、本社ヶ丸山頂に到着。それほど急ではないのに、不思議と登った〜という感じがする山だ。
山頂に着くと、大きな富士山が視界に飛び込んできた。雪の冠を頭に載せた富士山が、日の光を浴びてピカピカ光っている。滑らかな雪に陽が反射して、まるで真珠のように燦めいているのだ。山頂には他に誰も居ない。『パール富士』を二人占め。言葉もなく、ただただ立ち尽くして眺める。今日の富士山は、最上級のおめかしをしている。
ぐるっと周りを見渡せば、近くには小金沢連峰の山々、遠くには八ヶ岳まで見える。ピラミッド形でお馴染みの釈迦ヶ岳が目を惹く。その右奥には南アルプスが見える。今年の締めに、輝く富士山、そして八ヶ岳から南アルプスの大パノラマを見ることが出来て、大満足だ!誰も登ってこない静かな山頂で、眺望を充分満喫してから出発。清八峠までの道は所々凍っているところがあるので、念のためアイゼンを装着する。アイゼンの歯がパシパシッと食い込んで、やっと安心して歩ける。清八峠からの下りは北斜面なので、時々凍っていて緊張する。「今日は遭難できないぞ!」と呪文のように心の中でつぶやいている。
登山口まであと少しのところで、20代の外国人イケメン青年が一人で登って来るのに出会った。「三つ峠は遠いですか?」と日本語で聞かれた。今の時刻は14時15分、三つ峠まではあと3時間半はかかるはず。「三つ峠はまだ遠いから日が暮れて無理」と伝える。三つ峠山頂で友人と待ち合わせ、御来光を見る計画だったらしい。テント、寝袋、ヘッドランプなど一通りの装備は持っているそうだが、靴は普通のスニーカー。笹子駅から舗装道路をずっと歩いて来てやっと山に入った、せっかくなのでもう少しだけ登りたいとのこと。地図を持っていないと言うので、地図のコピーを無理矢理手渡す。「無事下山して欲しい・・」という、おせっかいなおばさんたちの必死な思いは伝わったであろうか。インドから来た、この青年に「そこらの川の水は飲めますか?」と聞かれ、即座に「ダメダメ」と答えてしまったが、「インドでは飲んでいる」と。確かに、インドで飲んでいるなら全く問題なしだった・・・。
「くれぐれも気を付けてね!」と青年を見送ってまもなく、急に目の前が開けて見晴らしの良い所に出た。青空をバックに山並みが見える。さっきの青年は振り返って、この景色を見ただろうか。登山口から笹子駅まで1時間半ほど舗装道路を歩く。道路に出て、ほっと一安心。遭難しなくて良かった〜。甲州街道に出てすぐのお店で、早めに缶ビールをゲット。さすがに大晦日、ほとんど人に会わず、静かな山登りを満喫できた。そして、『パール富士』という最高のご褒美をもらった。今の私には、本物の真珠よりもずっとずっと嬉しい。どうやら、大晦日の登山が病みつきになりそうだ・・。 (by なお)
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